月が満ちるまで
薄暗くなったリビングに気が付いても、電気をつける気にならなかった。
彼女がどこに行こうとしているのか不安だった。
あまりに違う環境だから、理解したいと思っても、もどかしさが先にたつ。
玄関のドアが開く音がして、軽い足音がこちらに向かってくる。
「未也」
どっきりをしかけられたかのようなリアクション。
びっくりした様子は実際の年齢より幼く見える。
「なあに、なんで電気も付けずにこんなトコにいるの」
「いいだろ。なあ、運命って信じるか」
シンクの水道を使って、手を洗い、うがいをしながらこちらを見た。
顔がカエルみたいだ。
目が大きくなってる。
勢いよく水を吐き出してから、俺を見た。
「なにソレ?どうしちゃったのぉ ビョーキ?」
「…なわけないだろ。おまえに聞いたのがマチガイだった」
ふうん…冷蔵庫に顔を突っ込んでいるからくぐもって聞こえる。
「あのさ、もしかしてイロぼけ?」
炭酸飲料のペットボトルを握って、顔をだす。
「なに言ってんだよ」
「運命っていったらそれデショ!あ~未也もあるし!」
今度はこっちが驚く番だ。
「なっ、いつから!男いんのか、未也!」
冷たい視線。
俺のほうが経験、少ないのかよ…
兄として、人生の先輩としてどうだろう…