月が満ちるまで
蒸し器の蓋を取ると、ふわっと湯気か゛あがる。
「熱いからね」
ふきんをつかんで、中味を取り出すと、そのまま、すり鉢にほうり込む。
湯気をたてる餅にすり潰した蓬をまぜていく。
熱いので、はじめはすりこぎで。だんだん冷めてきたら、手を使ってむらにならないように。
「草餅も久しぶりだね」
最近はあんこディナーが少なくなった。
草餅なら、あんを煮る手間がかかるし、蓬を摘む手間もかかる。
「たまにはね」
なんだか、とても優しい顔をした。
「こんど、素まんじゅうの作りかたを教えて」
「じゃあ、今度ね」
ほかにも、のり巻きや煮物を教えてもらいたい。
いつも一緒にいて作ってもらっていたけれど、記憶はずいぶんあいまいで、自分ひとりでは作れない。
蓬をまぜた餅を細長くまとめて、また蒸し器にいれる。
「小豆つぶそうよ」
テーブルに新聞紙を敷いて、鍋を置く。蓬のすりこぎを洗って、小豆を潰していく。
鍋にそって円をかくように。
わたしが潰しているときは、おばあちゃんが鍋を押さえていてくれる。おばあちゃんが潰すときは、わたしが抑える。
いつもの呼吸。
「おばあちゃん、今日ね柊兄がお節介したんだよ」
「へえ、柊がねぇ。あの子は、あんまりお節介なんてしないだろう」
「わたしの友達を、柊兄が決めようとするんだよ。おかしいよね」
あんこは二周目のぐるぐるにはいる。
「柊にもそんなカワイイとこがあったかい」
「…うん。どうしてだろう」
おばあちゃんは簡単に答をくれない。
自分でまず考えないと。
潰したあんこを丸めていく。丸いお盆にまあるく円を描いて。
「さあ、草餅にしようかね」
蒸し器から取り出した餅を、あち、あちっといいながらこねて、ひとつづつの大きさを揃える。
あとはあんを詰めるだけ。
感じからいえば、お茶碗のように餅をのばしていく。重なるはしを薄くのばして、あんを詰める。
この作業も大好きだった。
あと何回できるだろう。
限られた時間で。
今を大切にしなくてはいけない。
きちんと覚えておこう。どんな会話をしたか、どんな仕草をしたか。
ずっと ずっと
思い出を作っていけたらいいのに。