月が満ちるまで
ウチは両親が共働きだ。
携帯にメールが入るのは、何らかの指令があるときだ。
ワンフレーズのメロディー。母さんからだ。
フラップを開けて画面を確認する。
「遅くなりそう(>_<)海斗ご飯炊いておいて~」
書かれてはいないけれど、食べたかったらオカズ作って食べててってことだ。
あと、お風呂もね。
これは小学生の頃からだから、いまさら頼むことでもないらしい。
俺じゃなく、未也に頼んでくれと言ったこともある。
「海斗に頼むほうが、確実だからよ」
そう返ってきた。腹っぺらしだったから、留守番している間に料理をしていた。
目玉焼きからはじめて、炒めものくらい。たいしたものは作れないけれど、腹を満たすくらいにはなる。
冷蔵庫を確認して、米を研ぐ。
炊飯器にセットしてから、未也に声をかける
「俺めしだから、未也が風呂な」
部屋からえーーーっと声がする。
部屋に入り、ジャージに着替えて、走りに行くことにする。
あ、肉の下味だけつけとくことにする。今日は唐揚げだ。
玄関で柔軟をして、イヤホンを耳につっこむ。
アップテンポな曲で。
道を川沿いの遊歩道にとる。葉桜の並木と、黄色の菜の花が続いている。
みなもに光が揺れる。
気がつけば彼女のことばかり考えている。
印象的な目をしている。
目は嘘をつけない。
彼女の心を写す鏡みたいだ。透き通っていて、しゃんとしている。
その鏡に、俺はどう写るんだろう。
胸が苦しくなる。
呼吸のリズムが乱れて、息があがる。
橋の欄干にもたれて、深呼吸する。
きっと
俺が思うより、思ってもらえてないだろう。
それがくやしい。
彼女に俺を見て欲しい。
小さな
貪欲な願いだ