月が満ちるまで
君と僕
「おい」
「ああ」
真顔のハルが頷く。
腕時計の時間は、きっちり合わせてある。
あと一分
カウントダウン開始!
……40……30……20……10…
椅子を引く。
……5……4……3…
チャイム
「いこう」
教室の引き戸を開けて、廊下をダッシュ
前方には他の教室から飛び出してきた奴がいる。
五人。
今日は楽勝だ。俺とおばちゃんの絆をナメんな。
角を曲がって渡り廊下につく。先に着いているのが、ほかに二人。
パンの山の向こうに、お目当てのおばちゃんがいた。
「おばちゃん!!」
右手でおばちゃんの腕を掴もうとしたら、おばちゃんの手が先に動いた。
「あらあら~~金井君、久しぶり~~」
おばちゃんの手ががっちり金井先輩の腕をつかんだ。
………おばちゃん、相当な面食いだった。
金井先輩の後に俺に気が付いたおばちゃんは、ほほっと笑って、次は渡辺君ね~眼福~~と俺にパンを売ってくれた。
で、なぜかこうなる。
ハルが居心地悪そうに、パンをかじっている。
俺も金井先輩と並んで座りながら、尻がもぞもぞしている。
「これでも一番のお気に入りだったんだ」
金井先輩の手には一番人気の学校パンがあった。おばちゃん抜け目がない。
「で、風花に手を出してないだろうね」
「許可がいる訳じゃないでしょう」
「気にするな。全力で邪魔するだけだ」
「…余計なお世話だ。選ぶのは彼女なんだから」
従兄弟としての気持ちがいつから変わってきたのか知らないけれど、いまの彼女はフリーだ。
財布を触っていた金井先輩の手に、チケットが挟まれていた。
「悪いけど、予定を入れさせてもらうよ」
上村松園だ。
従兄弟なら知っているだろう。彼女がなにを好きかなんて。
俺は彼女の言葉を信じる……
不安に揺れても、信じたい。