月が満ちるまで
風花を誘わなくちゃね。
今まで、断られたことなんてない。
いつ見に行って、どこで食事をしよう。
風花の喜びそうな店を探しておかないと。
ちょっとしたカフェなんかもいい。お茶しながら見てきたばかりの展覧会の話をしよう。
「金井くん文化祭のことだけど…」
話かけてきたのは、小林。生徒会の会計で、
真面目な優等生なので成績も学年トップクラスだ。
「どうかした」
「なんだか疲れてるみたいね」
ちょんちょんとメガネを指す。
そういう自分もメガネをかけている。ただ、小林のメガネは似合っていた。
メガネ美人ているんだなって思わせる容姿。
メガネがなかったら平凡だったかもしれない。
「ちょっと寝不足。コンタクト入んなくて」
「これはこれで、いいんじゃない」
ちらりと視線をながすと、
「下級生が見とれてるじゃない」
渡り廊下だったから人目についていた。こっちを見ていたのは何人かのグループだった。
にっこりと笑顔を向けると歓声があがる。
「サービスいいのね」
飽きれたような声音。
「サービス業でしょ、僕ら。小林も愛想笑いくらいしたら」
「わたし、お愛想で生徒会に入った覚えはないから」
「確かに、内申書に生徒会の文字があったらいいよ。でも、それだけで入ったわけじゃないでしょ」
僕は覚えてる。
小林の立候補演説。
この学校の制服を変えようというものだった。この学校伝統だけは長くて、その伝統分だけ古めかしい制服になっている。
男子はブレザーにネクタイ。これはまあ、いい。
女子は悲惨だ。ブレザーにジャンパースカート。プリーツの入ったカワイイタイプじゃなくて、フレアスカート。
半端な丈で野暮ったい。
カワイイ制服を着たい子は丈を詰めて、フレアをたっぷりとったスカートを作る。
それはもちろん校則違反になるけれど、違反の制服なら、カワイイ。
「女子、味方につけたほうがいいでしょう」
「まぁ…ね」
くすり笑う。
笑うと小林もカワイイもんだな。