月が満ちるまで

生徒会長は三年の高藤先輩になる。高藤先輩は文化祭を最後のイベントに生徒会を引退する。

運動部にしても夏のインターハイで引退するし、文化部も文化祭で引退なので、同じタイミングで生徒会も入れ替わる。


「最後は花をもたせてくれよ、金井」

「僕が持たせなくたって、先輩なら大丈夫じゃないですか」




高藤先輩は大人っぽい。生徒会会長というだけあって、人を引き付ける。

あどけない笑顔をみせるくせに、先生への交渉は譲らない粘り強さがある。

笑顔でいくのか泣き落とすのかその手腕は鮮やかだ。

現国の化石と帰宅時間について揉めた時も、

「先生にそんなに心配してもらえるなんて、オレ嬉しいです……」

と返して、独身40女に恥じらいを抱かせたという過去がある。




「サクッとやっていこう。今日は去年の文化祭のおさらいだから、活発に問題点をあげていこう」

去年の記録に目を通しながら、高藤先輩が話していく。

落ち着いた声音で聞きやすい話しかたをする。

あわてると呂律がまわらなくなる僕とはすごい違いだ。



となりでメモをとる小林が落ち着きがない。

いつもなら冷静すぎるくらいなのに、資料をめくったり、ノートを確認したりせわしない。

ペンで、とんとんとリズムをとりだした所で、高藤先輩の声がかかる。

「小林、落ち着きがないな。なにか心配でもあるのか」

その場にいた6人の視線が集まる。

急に名指しされて、小林も頬に赤みがさす。


「……いえ心配はありません」

片眉をあげて、先輩が続ける。


「おい、おい。ここにいるのは同じ釜のめしを食う仲間だぞ。これから祭体制に入るんだから、心配があるなら早く言えよ。金と勉強意外なら相談にのるからさ」

はい、と杉田。

「先輩、セックスは」

「お前とはやらん」

「相談、でしょ」

「早く彼女を作れ」

くすりとした笑いがおきる。



うーんと伸びをして、なにげなくコーヒーを飲む。

「まあ…言いたくなったら、いつでも聞くから。悪かったなこんなアホがいるときで」

「オレ、ムードメーカーでしょうが」

と杉田。

「空気読めよ」

にべもない。



小林は

「それじゃあ、今度」

と言ってノートに視線を落とした。

< 23 / 40 >

この作品をシェア

pagetop