月が満ちるまで
生徒会長は三年の高藤先輩になる。高藤先輩は文化祭を最後のイベントに生徒会を引退する。
運動部にしても夏のインターハイで引退するし、文化部も文化祭で引退なので、同じタイミングで生徒会も入れ替わる。
「最後は花をもたせてくれよ、金井」
「僕が持たせなくたって、先輩なら大丈夫じゃないですか」
高藤先輩は大人っぽい。生徒会会長というだけあって、人を引き付ける。
あどけない笑顔をみせるくせに、先生への交渉は譲らない粘り強さがある。
笑顔でいくのか泣き落とすのかその手腕は鮮やかだ。
現国の化石と帰宅時間について揉めた時も、
「先生にそんなに心配してもらえるなんて、オレ嬉しいです……」
と返して、独身40女に恥じらいを抱かせたという過去がある。
「サクッとやっていこう。今日は去年の文化祭のおさらいだから、活発に問題点をあげていこう」
去年の記録に目を通しながら、高藤先輩が話していく。
落ち着いた声音で聞きやすい話しかたをする。
あわてると呂律がまわらなくなる僕とはすごい違いだ。
となりでメモをとる小林が落ち着きがない。
いつもなら冷静すぎるくらいなのに、資料をめくったり、ノートを確認したりせわしない。
ペンで、とんとんとリズムをとりだした所で、高藤先輩の声がかかる。
「小林、落ち着きがないな。なにか心配でもあるのか」
その場にいた6人の視線が集まる。
急に名指しされて、小林も頬に赤みがさす。
「……いえ心配はありません」
片眉をあげて、先輩が続ける。
「おい、おい。ここにいるのは同じ釜のめしを食う仲間だぞ。これから祭体制に入るんだから、心配があるなら早く言えよ。金と勉強意外なら相談にのるからさ」
はい、と杉田。
「先輩、セックスは」
「お前とはやらん」
「相談、でしょ」
「早く彼女を作れ」
くすりとした笑いがおきる。
うーんと伸びをして、なにげなくコーヒーを飲む。
「まあ…言いたくなったら、いつでも聞くから。悪かったなこんなアホがいるときで」
「オレ、ムードメーカーでしょうが」
と杉田。
「空気読めよ」
にべもない。
小林は
「それじゃあ、今度」
と言ってノートに視線を落とした。