月が満ちるまで
はっきりしたことなんてない。
だから、こんなことになって驚くのはお互い様なんだ。
呼び出しを受けた。
金井先輩からだ。
ほっといてくれたらいいのに。
自分は勝者だと言いたいのか。不愉快でバックレようかと思ったけれど、顔を拝む機会もそうないので思いなおした。
なにより、絵のことを聞いてみたかった。
いつ、こんな顔をしたんだろう。
何を見て笑顔を作ったんだろう。
でも、そんなバカなことは聞けるわけない。
聞いたとして、答えてくれるはずがない。
もし答えてくれたとしても、その答えは俺が一番聞きたくない言葉かもしれない。
愛の言葉に浮かべた笑顔かもしれないのだから。
体が重い。
呼び出しは生徒会室。
この前、彼女を見かけた渡り廊下の隣。
だからか。
よくご存知だね。
桜吹雪ではしゃぐ様子も見られてるわけだ。
ほほが熱くなる。
つい先月まで中学だったんだ…しかたない。
だけど、これから会う相手は高校の先輩で、生徒会の副会長だ。
このままでいいのかって気がする。
急には変われないのに。
息を吸い込んで、腹から声を出す。
「失礼します」
そして引き戸を思いきり開けた。
真っ正面に窓。その前に金井先輩が立っていてこちらを向いていた。
クラスの女子に騒がれていた容貌はすらりとしていてバランスよく筋肉がついていた。中性的な顔立ちに、優しげなまなざし。
生徒会、副会長の肩書があるだけあって、成績も良さそうだ。
一瞬でコンプレックスの塊になる。
「渡辺海斗です」
会釈すると先輩も会釈を返して言った。
「金井柊也です。呼び出してすまないね。ここならコーヒーが飲めるからね」
言いながら自分からコーヒーを入れてくれる。
「こういう所はいいだろ。砂糖とミルクはどうする」
「じゃあ両方ください」
受け取ったマグカップを挟んで向き合う。沈黙が落ちるけれど、俺から言うことはない。
何を言われる?
金井先輩は俺にコーヒーを勧めて自分もマグカップに口をつける。