月が満ちるまで
コーヒーを飲む姿もさまになる。きっと育ちがいいんだろう。ウチみたいな、普通の家の普通の子供じゃなさそうだ。
ほんとはコーヒー牛乳くらいしか飲まないなんて言えずに、マグカップに口をつける。
「まわりくどい事を言う気はないんだ。風花には関わらないでほしいんだ。」
「…どうしてですか」
急にコーヒーが苦くなる。ミルクも砂糖も感じない。
「君には風花を支えられない。だから始めから関わらないほうがいい」
金井先輩は肘をついて手を組んだ。そんな仕草ひとつとっても自然で、存在感のある人だ。
「なんでわかるんですか、そんな事」
決めつけるなよ、お前が。自分との差を見せ付けられているようで頭にくる。
「わかるさ。今までイロイロ見てきたからね」
考えるように視線をそらせてから、強い目で俺を見た。
「君は風花の何を知ってる」
「……同じクラスで、これから仲良くなっていくつもりです」
それが大事なのか?
これから、仲良くなって少しずつ知っていくことの何が悪いのか。
目の光は強いままに、目を細めて笑う。まるで、ばかにされてるみたいだ。
「納得いかないなら、風花に名前の由来を聞いてみたらいい。君にはどの程度話すか知りたいものだね」
「何があるって言うんですか」
「聞いてのお楽しみだよ。僕の納得のいく答えでないなら、風花に近づかないでくれ」
「…納得いく答えなら、いいんですね」
もう隠していられない。
嫌悪感をあらわにして、睨みつけていた。なんで先輩だからって、そこまで言われないといけないんだ。
「今まで納得いく答えなんてなかったよ」
くるくるとマグカップを回す金井先輩の指はすらりとして長い。
他にも、こんなことされた奴がいるんだ。そのことが物凄い衝撃となってぶつかってくる。
俺に対してのこれも、いわばデモンストレーションでしかないのかもしれない。
「僕は、風花を支えられるようになろうとしてきた………
………誰にも負けたりしない」
どこからくる自信なんだろう。
「いったいいつから彼女を知っているんですか」
「さあ…昔からだよ……ずうっとね」