月が満ちるまで

コーヒーを飲む姿もさまになる。きっと育ちがいいんだろう。ウチみたいな、普通の家の普通の子供じゃなさそうだ。


ほんとはコーヒー牛乳くらいしか飲まないなんて言えずに、マグカップに口をつける。


「まわりくどい事を言う気はないんだ。風花には関わらないでほしいんだ。」


「…どうしてですか」


急にコーヒーが苦くなる。ミルクも砂糖も感じない。


「君には風花を支えられない。だから始めから関わらないほうがいい」


金井先輩は肘をついて手を組んだ。そんな仕草ひとつとっても自然で、存在感のある人だ。


「なんでわかるんですか、そんな事」


決めつけるなよ、お前が。自分との差を見せ付けられているようで頭にくる。


「わかるさ。今までイロイロ見てきたからね」


考えるように視線をそらせてから、強い目で俺を見た。


「君は風花の何を知ってる」


「……同じクラスで、これから仲良くなっていくつもりです」


それが大事なのか?


これから、仲良くなって少しずつ知っていくことの何が悪いのか。


目の光は強いままに、目を細めて笑う。まるで、ばかにされてるみたいだ。


「納得いかないなら、風花に名前の由来を聞いてみたらいい。君にはどの程度話すか知りたいものだね」


「何があるって言うんですか」


「聞いてのお楽しみだよ。僕の納得のいく答えでないなら、風花に近づかないでくれ」


「…納得いく答えなら、いいんですね」


もう隠していられない。


嫌悪感をあらわにして、睨みつけていた。なんで先輩だからって、そこまで言われないといけないんだ。


「今まで納得いく答えなんてなかったよ」


くるくるとマグカップを回す金井先輩の指はすらりとして長い。


他にも、こんなことされた奴がいるんだ。そのことが物凄い衝撃となってぶつかってくる。


俺に対してのこれも、いわばデモンストレーションでしかないのかもしれない。


「僕は、風花を支えられるようになろうとしてきた………



………誰にも負けたりしない」




どこからくる自信なんだろう。


「いったいいつから彼女を知っているんですか」


「さあ…昔からだよ……ずうっとね」

< 5 / 40 >

この作品をシェア

pagetop