月が満ちるまで
ずっと昔から知っていて、守ろうとしてきた。
何なんだ、いったい
どんな過去があれば、そんなことが言えるんだろう。
たかだか15・6年しか生きていないのに、金井先輩はとてつもない秘密を知っている。
それでも、俺の知りたい事は、過去なんかじゃない。
そう言ってやりたかった。
なにが好きなのか
なにが楽しいのか
どんなことが嬉しいのか
どんなことが心地好いのか
俺が知りたいのはそんなことだ。
彼女に笑っていてもらいたい。
たとえ、過去がどんなに悲惨でも。
過去を消しさるなんて出来ない。
過去の思い出は嫌な事ひとつ、抜きとったら、それうここにまつわる全てが色あせてしまう。
忘れたい誰かひとりのために思い出が変わってしまう。
そんなのは嫌だった。
もし、そんな悲惨な過去があるのなら誰にも知られたくないはずだ。
ふと彼女が可哀相になった。
守るはずの腕が傷をえぐり血を流す。
隠しておきたい物を見ていいんだろうか。
「やっぱり納得できません。金井先輩は彼女が人に知られたくないことを聞いてこいと言っています。そんなことは、俺にはできない」
ぴくりと眉が動く。
「もう二度と悲しむことがないように気をつけるのがいけないことかい」
「それは間違っていない…でもそれだけじゃ、楽しくないでしょう」
唇をなめて考える。
「だって過去に怯えているだけだから…」
まっすぐ先輩の目を見る。
「彼女の過去は聞きません。俺は彼女に笑ってもらいたいんだ」
くくっと笑い声がした。
「僕にそんな事を言ったのは君が初めてだよ」
まいったね…
そう聞こえた。かすかな声で。
「ねぇ、聞こえたかい風花」
がたんと廊下から音がした。
おずおずと引き戸を開けて、少しうなだれた彼女が入ってきた。
「また、やってたんだ」
「僕のライフワークなんでね。いつ怒鳴りこんでくるかひやひやしたよ」
「うそばっかり。もうやめてって言ったのに…」
「風花に悪い虫がついたら困るからね」
ちらと俺をみる。
「なあ」
虫に同意を求めないでほしい。
でも、まるっきり否定されているのよりは悪くない。
こんなふうに話すのは。