月が満ちるまで
遊歩道を歩きながら、彼女は自分の楽しみを見つけていた。
「あのベンチの下には、いつも猫がいる」
だの
「あの家の庭にあるラベンダーがもうすぐ咲きそう」
そんな、ぽろりとこぼれる言葉を聞くうちに、少し落ちついてきた。
彼女が冷静なのに、俺が取り乱すわけにはいかない。なるべく感情をこめて、相槌をうってきた。
彼女の世界で興味があるのは、猫やラベンダーだけにしておくわけにいかない。
いま、彼女の視界には俺もいて彼女のことを知りたいと思う気持ちと、俺のことを知ってもらいたいという欲望がある。
できるなら
離れていても、忘れられないくらい彼女のなかに居座りたい。
俺が惚れて…溺れるくらい…溢れるほど想っているのを知ってもらいたい。
俺の欲望を知ったら、彼女は驚くだろうか。
鹿のような瞳を見開いて、俺を見るだろうか。
臆病な鹿に近づくには、時間をかけるしかない。
ちいさな時間の積み重ねを続けるしかない。
一緒に帰るのも
次につながっていくように、あせらずに距離を縮めて、彼女の一番そばに居たい。