14年目の永遠の誓い

「あのね、」



オレの驚きに答えるように、ハルは続けた。



「一番怖いのは脳でしょう? 脳は後遺症がすごく怖いし」

「……ああ、確かに」



それは、怖いかも。

この上、頭蓋骨を切って開頭手術!?



……あり得ない。



そう考えると、確かに不幸中の幸いと言えなくもない。

でも、この状況を素で「良かった」と言えるハルの精神力は本当にすごいと思う。

普通なら、文句のひとつやふたつも言いたくなりそうなもんだ。
って言うか、ぶつぶつ文句を言う方が普通じゃないかと思う。

昔から、ハルはいつもどこか達観している。



「それにね、ママは脳外科医でしょう?」

「うん」

「あんまり心労かけたくないし」



……って、よく分らない専門外より、自分の専門科の方が良くない?

いや、もちろん、脳に問題が出るのは勘弁して欲しいんだけど。

けど、ハルはオレが思っているのとはまったく違う事を考えていたらしい。



「家族の執刀はできないから、」



ハルがすべてを言い終わっていないと察していながらも、意外な言葉に、つい途中で口を挟む。



「え? そうなの?」



オレは、大切な人の手術なら自分がやりたいだろうし、するのだろうと、勝手に思っていた。



「だって、冷静に執刀できないでしょう?」

「……確かに」



自分が助けたいと、その力があると思っていても、愛娘の身体にメスを入れて冷静でいられる訳ないという気がする。

あの豪胆なお義母さんなら……と思わないでもなかった。

けど、もしもオレが神の手を持つ医者だったとしても、うっかり手が滑ったら、もしも自分のミスでハルに何かがあったら……そう想像しただけで、もうダメだった。

オレならきっと、手が震えて何もできない。

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