14年目の永遠の誓い
けど、ハルが言いたいのは、そういう事じゃなかったらしい。
「今、ママが脳外のエースだよ。なのに、違う先生に任せないといけないの。急な事だと外からお医者さまを頼む時間なんてないし」
「……あー、なるほど」
確かに、それは精神的にかなりシンドい状況な気がする。
「ただでさえ、いっぱい心配かけているし、忙しくて大変なお仕事だし……」
そこで、ハルは一度言葉を切って窓の外に目を向けた。
9月下旬の残暑。明るい日差しが差し込んでいた。
「お医者さまの仕事って激務でしょう? ママも昼夜関係なく働いているし……。ホント、これ以上の心労はかけたくないよね」
ハルはそう言うと、小首を傾げてオレをじーっと見つめ、なぜかニコッと笑顔を浮かべた。
「……ハル?」
ここまでの話の流れとハルの表情がつながらない。
オレの困惑をよそに、ハルはふわっと笑った。
「……カナがお医者さんを選ばなくて良かった」
「え?」
それ、どういう意味?
「……あ、ごめん。何か、変なこと言っちゃった」
「あ、いや。ただ……どういう意味かなって」
「えっと、……別にお医者さまが嫌って訳じゃないよ。わたしも、いつも本当にお世話になっていて、心からありがたいと思っているし」
慌てた様子で、そんな事を言いながら、ハルは更に言葉を探す。
いつもは、心の中で言葉を探して話す事が決まってから、ようやく口を開くハル。
思った事をぽろりと口にしてから言葉を探すのは、本当に珍しい。