キスは目覚めの5秒後に
彼は英語はできるけれどスウェーデン語は日常会話レベルで、難しい専門用語や方言なんかの訳は自信がないらしい。
『できるが、時間がかかるんだ。他の調べ物ができなくなる』
それならば他の社員に任せればいいのでは?と訊いたら、スウェーデン語をできる社員が少なくて、どうしても橘さんに仕事が回ってくると言った。
ちょっとでも出来れば交流ができるからと。
「確かに、マイナーな言語だものね・・・」
私が一年間留学していて方言もある程度分かると知ると、目を輝かせて喜んだ。余程困っていたとみえる。
一緒に住むのなら余計に体の関係の方が気になってしまい、それとなく訊くと彼は一笑した。
『心配するな。俺は、先の約束の出来ない女は抱かない主義だ。弱みに付け込むこともしない』
それを聞いてとりあえず安心したけれど、たまに髪とか頬に触れてくるのが気になる。
昨夜も眠る前に頬に触れながら『おやすみ』なんて言うし・・・。
彼も健康な男だもの、もしも求められたら、きっと私は断れない。
「今はまだ8時か」
大使館は9時30分からの筈だから、出掛けるまではまだ時間がある。
「とりあえず、掃除しようかな」
住まわせてもらっている恩義だもの、脚が痛かろうとできることはしなければ。
2LDKの間取り。
会社が用意してくれたマンションらしいけれど、一人暮らし用にしては広すぎる。
来る予定だったもう一人と一緒に住むためだったのだろうと思えた。
掃除をしていると適度に時間が過ぎたので、大使館に出掛けるべくタクシーを呼んだ。