キスは目覚めの5秒後に
今、ソース強盗が流行っていて人気のない道の一人歩きはすっごく危険だと教えてくれた。
でもまさかガムラスタンで被害にあうなんてーと心底気の毒がってもくれた。
正確にはガムラスタンではなく、そこを抜けたところの中央駅へ向かう路地だけど。
ソース強盗。
警察でも言われたこと、知っていればもっと気をつけたのに・・・。
はあ~とため息が出る。
「君が噂のミヤコかい?」
「はい?」
急に話しかけられて、見上げるとブラウン髪の男子社員がいたので急いで立ち上がった。
「はじめまして。へえ、人形みたいに可愛いな。僕はルドルフ。よろしく」
にこっと笑うと白い歯が見えて、テニスとかのスポーツ選手にいそうな爽やかな人だ。
「はじめまして、タケシタです。よろしくお願いします」
握手を求められたので応じると、今夜どう?って食事に誘ってきた。
「日本に興味があるんだ。特に君みたいな女の子に。いろいろ話を聞かせてよ。あ、タチバナ。まさか君の許可がいるかい?」
ルドルフがパッと私の背後を見た瞬間、「いや、要らない」と頭の上で彼の声がした。
いつのまに後ろに来たのだろう。
「だが、ミヤコは俺専属なんだ。仕事中は話しかけないでくれ」
「ああわかったよ。じゃまたあとで誘うよ。ミヤコ、そのとき返事聞かせてくれよ。きっとだ」
ルドルフは爽やかに笑って、自席のほうへ歩いていった。
「あんたには隙がある。そんなだから強盗にも狙われるんだ。誰にでもヘラヘラすんな。もっと気を引き締めてろ」
「・・・はい。すみません」
「わかったら速やかに仕事しろ。5秒でとりかかれ」
「は、はい!」
今の私には超厳しい言葉。
だけど本当のことだから何も言い返せない。
企業独自の言葉を必死に訳していると、エレンが来てデスクにある空の紙コップを取った。
「ミヤコ、捨てておくわね」