キスは目覚めの5秒後に
「ありがとう、エレン。おいしかったわ」
「どうしたしまして。ねえミヤコ、さっきルドルフと何を話してたの?もしも誘われたなら、気をつけた方がいいわよ」
「彼の何を気を付けるの?」
「彼、とっても女たらしだから。ミヤコにはタチバナがいるから平気だろうけど、ルドルフの誘いにのっちゃダメよ」
食事に行ったら最後、即ベッドの上よ!と、真面目な顔で言う。
即って、そんな。
確かに軽い感じの人だったけれど、ベッドに行くには女の方もその気になっていないとできないわけで。
つまるところ、それだけルドルフが男として魅力的ということになる。
エレンは彼の誘いにのったことがあって純粋に忠告してるのだろうか。
それとも、彼のことが好きだから牽制しに来たのだろうか。
表情からは読み取れない。
「彼は毎日とっかえひっかえなの!」
「エレン、忠告ありがとう。誘いには乗らないわ。この通り、脚も怪我してるしね」
足の包帯を見せながらきっぱり言うと、エレンはホッとしたように微笑んで戻っていく。
その途中で、ルドルフのことをチラッと見た。
やっぱり彼のことが好きな感じ?
ルドルフは仕事もできそうだし、モテるのだろう。
真剣な表情で仕事をしているルドルフをなんとなく見ていると、背中に突き刺さるような視線を感じてゾクッとした。
振りかえると、仮上司の橘さんが私をじーっと見ている。
頬杖をついて目を細めていて、怒っていると思えた。
「すみません!早く仕上げます!」
いけない、いけない、私ったら!
さっき注意されたところなのに!
そうだ、今は人のことを構ってる場合ではないのだ。
手のひらで、頬をペシン!と叩いて渇を入れた。
そのあとは彼が私を呼ぶまで、脇目もふらずに書類作りに没頭した。