金木犀と青空
「まだ右腕痛む?」
「いや、もう、だいぶ楽になったよ」
「そっか、よかった」
よかった、なんて嘘だ。
淳太(ジュンタ)の怪我が理由で、
荷物持ちという理由で約1ヶ月部活がない日は一緒に帰った。
週2回しかないこの大切な時間も怪我が治ってしまえば勿論終わり。
治らないで、なんて不謹慎なことを考えて、また自分に嫌気がさす。
「中野」
「うん?」
「…もう駅だよ」
困ったように笑う淳太の少し茶色い髪が揺れる。
マフラーのせいではねちゃう、なんて前に話してくれたけど、私はそれがすごく好きだ。
「じゃあ…今日も気をつけてね」
「うん、いつもありがとな」
そう言ってリュックを左肩だけで背負う。
いつもならこのまま私はバス停に向かう。
…でも今日はいつもより寒い。
「淳太っ…!!」
かなり大きな声だったのか周りの人が振り返る。
淳太が慌てて振り向く。
「怪我が治っても…帰り道は一緒だから…だから」
「真侑(マユ)」
初めて名前で呼ばれて心臓が跳ねた。
「これからも一緒に帰ろうよ」
そう言って微笑んだ淳太が寒空の下で眩しくて、好きだと思った。