危険な愛を抱きしめて
由香里と二人で、ケーキ屋を出ると。
由香里は、楽しそうに、ふふ、と笑った。
「……なんだよ?」
「雪ってば。
風ノ塚さんのことを、相当気に言ったみたいね?」
……一体、なにを言い出すのかと思ったら……
由香里の言葉に、オレは肩をすくめた。
「別にオレは。
風ノ塚が好きってわけじゃない。
アイツの作るケーキが気に入っているだけだ」
「ふーん、そう?
ふふふ……♪」
「だから、何だよ?
さっきから。
……気持ちわりぃな」
「だって、ね。
雪の真剣な顔って。
久しぶりに見た気がするの」
「……なんだ、そりゃ?」
「古武術の道場に通い始めたころ。
だいぶ年上の先輩に、練習試合で負けて『オレは、世界で一番強くなる!』って、叫んでたころみたい」
……一体、いつごろの話をしてるんだ。
「……つまりオレは。
今でも、ガキみたいだと?」
「……そうは、言ってないわよ。
新しく、真剣に打ち込めそうなモノが見つかって良かったねって」
多分もう、二度と。
武術の練習着を着るコトが出来ないオレに。
由香里は、ほっとしたように、笑う。