危険な愛を抱きしめて
「……機械でやっちゃ、ダメなのか?」



 卵の白身だけが入っているボールと、大きな泡だて器を手渡されて数分。

 力が入るばかりで、白身は一向に思ったようなメレンゲになってくれない。

 それにとうとう閉口して聞いたら、風ノ塚は、笑った。

「機械はダメですよ~~
 あれはお手軽で早いですが、微妙な加減ができません~~
 メレンゲづくりだけでなく、物事すべてそうですが。
 あせって急いでも、何もいいことはありませんから~~」

 ……だから、あんたは。

 口調からしてそんなに間延びしてるのか。

 思わず、そう突っ込みたくなる言葉を飲み込んで、オレはもう一度白身と格闘する。


 ……えい、くそ……この。


 自由にならない、強敵な卵と格闘することしばし。

 肩で息する情けないオレに、風ノ塚は微笑んだ。

「ケーキとかスィーツとかは。
 喜んで食べてくれるひとの顔を思い浮かべながら作ると、頑張れるし。
 上手に出来ますよ~~
 村崎君は、誰か、好きなひと、いませんか~~?
 そのひとにプレゼントするつもりで、ケーキを作ってみたらどうですか?」



 ……えっ……!



 
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