危険な愛を抱きしめて
 今、一番。

 オレは。

 誰よりも、何よりも、由香里のことが、好きだ。

 そのココロに偽りなんざなかったが。

 複雑な事態に、くらりと、何かが揺れかける。

 ……こんな気持ち では、いけない。

 これじゃ。

 母さんが死んですぐ、他の女を家に入れた親父と変わらねぇじゃないか。

 やっぱり、アヤネともちゃんと話をしよう。

 ダレかに追いかけられているっていう話は。

 アヤネにとっては、何かの口実なんだろうが。

 俺にとっては。

 本当に、アヤネと話し合えるチャンスだと考えよう。

 アヤネときちんと、別れるために。

 そう思いながら席を立つ自分が、まだ。

 風ノ塚に借りたエプロン姿だって言うことを思い出したから。

 アヤネをその場に残し、奥に入った。

 それからすぐ。

 オレが。

 前で結ぶタイプのぐるぐる巻きのエプロンのひもを解いている最中に、やつらがきたんだ。

 カラン コロン

 ……なんて、妙に涼やかな鐘の音を鳴らして。

 このケーキ屋の雰囲気に絶対合わない雰囲気の人間だった。

 そう。

 アヤネの言ったとおり。

 人相の悪りぃ男が、四、五人。

 ケーキ屋に押し掛けてきやがったんだ。



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