危険な愛を抱きしめて
「……なにすっ……!」

 由香里の軽いカラダは、簡単に男の胸の中におさまりかけた。

 嫌がって身をくねらしても。

 彼女の力で男の手は、簡単には外れない。

 由香里の目が好戦的にきらりと光った。


 おっ、出るか。

 由香里の得意技、古武術の裏拳!


 前に、由香里に痴漢を働こうとした間抜けな男も。

 ひったくりをしようとした莫迦なやつも。

 由香里の裏拳パンチ一発KOだったことを知っていたから。

 オレは特にあわてず傍観していた。

 ……のに。

 今日に限って、由香里にキレのある技は出なかった。

 普通の女の子みたいに、男にされるままになっている。

 なぜ?

 でも。

 ……これは、まずい。

 何か、由香里は、調子悪いのか?

 フォローに入ろうとしたオレの前に、脳天気な声が割って入った。

「あの~~
 お取り込み中、すみません~~」

 きけば、それは。

 風ノ塚の声だった。
 
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