危険な愛を抱きしめて
 


 びょょょよよよよょょょ


 風景に圧倒されて、思わず歩くのをやめたとき。

 谷側の方から、強く、生暖かい風が吹いた。

 その風に押されるように。

 カラダがぐらり、と草原側に傾いて、どきり、とする。



 ……冷たい……!


 そう。

 草原は、見かけとは違い、恐ろしいほどに冷えていたんだ。

 氷よりも。

 他の。

 今まで、触ったどんなものよりも、冷たく、寒い。

 まるで。

 ……まるで、それは『死』

 そのものであるかのように。

 草原は。

 落ちてさまよいだしたら、二度とと戻ることはない

『死』の世界であるように。

 ……!

 本能的な恐怖に身をすくませて、慌ててバランスを立て直すと。

 今度は、がくん、と立っている歩道自体が、大きく揺れた。

 なにが起きたのだろうか?

 突然の振動に。

 今まで歩いていた道の、行く手を眺めて息を呑んだ。

< 161 / 368 >

この作品をシェア

pagetop