危険な愛を抱きしめて
_(2)
……さく さく さく
女の白い手が。
器用にアップルパイを切り分ける。
「あの……喜代美様。
それは、この町谷がいたしますので……」
おずおずと申し出た町谷に。
喜代美が、冷たく微笑んだ。
「けっこうです。
私の作ったパイですから、最後まで自分で取り分けます」
海外に来ても、和服をきっちり着ている喜代美の迫力に。
町谷は、あっさり降参して、困ったようにオレを見る。
オレは、ため息をついた。
「……パイなんて焼いても、オレは食べませんよ?」
そうさ。
なんで、こいつの作ったアップルパイなんざ、食わなくちゃいけないんだ。
オレが言うと、今度は喜代美が、ため息をついた。
「……音雪さんは、なにをスネているんですか?」
……は?
思いもかけない、喜代美の言葉に、言葉に詰まる。
「……お父様やお兄様が、付き添っていただけないから、腹を立てているんですか?」
「そんなことは、ありません!」
そうさ。
小さなガキじゃ、あるまいし!
手術も無事に終わって二週間もたったのに。
いまさら、親の付き添いなんざ、いるもんか!