危険な愛を抱きしめて
 病院勤務者用の、寮と同じ棟にある由香里の部屋は、昔から二階だ。

 柵や、雨どいを伝うと。

 玄関を使わずに窓から簡単に入れることも知ってる。

 ガキの頃は、よくそうやって。

 窓から勝手に由香里の部屋に、遊びに行ってたもんだったが……

 今、由香里が入院している病院の個室を下から見上げて。

 さすがにうう、と腕組みをした。

 病室だって、由香里の部屋の外観とそう変わらないから、足場に困るわけじゃない。

 心臓の手術で体力を失って、登れなくなったって言うわけじゃない。

 ガキの頃は良くても。

 今、ソレをやって見つかったら。

 完全に不審者扱いになるだろうな、っていうことに気がついたんだ。




 オレは困って、窓にそっと小石を投げてみた。

 それで。

 由香里が病室のベランダに出て来られるくらい、病気が軽いなら。

 由香里に手でも振って、挨拶して帰ればいいし。

 本当に悪くて、出てこられないようなら。

 恥も外聞もなく。

 不審者に間違われようが、どうしようが。

 病室まで、強行突破するつもりでいたんだ。

 
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