危険な愛を抱きしめて
「ん、もう!
 そんな大声なんて、出さないの!
 ここは、病院なんだから……!」

 由香里の方がオレよりも、もっと大声を出して、そんなことを言うし。

 しかも、出てくる気配なんざねぇし!

 まったく、もう!

「オレを黙らせたかったら、顔ぐらい出せよな!
 どうしたんだよ、一体!」

「……兄貴に。
 雪だけは、入れないで、って言っておいたのに……!」

 由香里は聞こえるか聞こえないかわからねぇ位の声で、言いやがった。

「ああ?
 ん、だよそりゃ!」

「だって……!
 あたし、可愛くない……!
 よれよれパジャマだし!
 髪の毛、ぼさぼさだし!
 お化粧だってしてないし!」

 ……入院中に、化粧なんざしているヤツがいるか!

 と突っ込みを入れようとして、思いとどまった。

 つまり。

 弱ってる姿を、オレに見せたくない……?

 そう、思い当って、オレは思わずため息をついた。

 由香里は女の子だし。

 普段通りではないカッコをヒトに見せたくない、なんてことは。

 ついこの間まで病気をしていたオレ自身、よくわかる。

 だけども。

 由香里の『拒否』は。

 オレをまるきり他人行儀に当てはめているようで。

 イヤだったし。


 ぜったい口には出したくなかったけれども……悲しかった。
 
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