危険な愛を抱きしめて
 オレは、見えない由香里に向かって、両手をさし伸ばして言った。

「おお~~
 愛しきジュリエット。
 お前の、白き顔は、満月も恥らうほど美しく。
 その、輝く瞳は千の星を集めたよりも、強く鮮やかに光り輝く……」

「……なによ、それ」

 オレのあまり大きくはねぇ。

 芝居がかった声に。

 由香里は、やっと反応して、窓を開けた。

 その顔を見て、オレは思わず微笑む。

「シェイクスピアのロミオとジュリエット。
 ……知らねぇ?」

「……知ってるけど」

 由香里は、ちょっとあきれた顔をして、笑った。

「前に雪にやった覚えあるし。
 ……でも……
 まさか、雪がノってくれるとは、思えなくて」

「由香里は別に特に化粧とかしなくても……その。
 ジュリエットみてぇに……き、キレイだと思って……
 ……変か?」

「ものスッゴく変!」

 オレが必死になって紡いだ言葉を、由香里は、あっさり切って捨てやがった。

 ……って!

 おいおい!

 それは、ないだろう?

 やってられるか、と肩をすくめるオレに。

 由香里は、笑って言った。

「でも、雪がロミオをやると、とってもカッコイいいね?
 大好きよ?」



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