危険な愛を抱きしめて
 言って、ヤツは、アタマを抱えるように、うずくまった。

「……だけども。
 もう少しで、ウチでも診られないほど……悪化していく由香里に。
 これ以上何が出来るって、言うんですか?
 これだけ、珍しい病気のまともな治療法なんて、ありません!」

 言って、医者はオレを睨んだ。

 由香里に大金をつぎ込んでも、結局。

 新しい病気の治療法の確立のために、実験動物みたいになるしかないんだ……と。

 由香里の次以降。

 同じ病気を発症した人間のために、役立つデータを残せるかもしれなくても。

 由香里自身は、まず。

 ……救われないだろう、と。

 由香里の叔父は、目の端に涙をためて言った。

「……由香里は、それでも。
『生きる』って言ったんです。
 例え、意識を失うことも出来ないほど、強い痛みが出ても。
 確実に迫って来る『死』の恐怖に本当は怯えていても。
 同じ病気を持っていて。
 いつ発症するか……しないか……判らない、兄の薫のために。
 自分の身体を使ってくれ、とは、言ったんです。
 ……でも」

 言って医師は、拳を握りしめた。

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