危険な愛を抱きしめて
 ……もしかしたら、この時。

 由香里の叔父に話した資金援助の話とか。

 細かい話し合いを薫ときちんとしていたら。

 たぶん。

 薫とオレは、決定的な罪を起こさなかったかもしれなかった。



 ……だけども。


 オレは……怖かったんだ。

 薫が……

 ……薫までもが。

 由香里の未来(さき)を見捨てるような、言葉を紡いだらどうしようか、と。

 由香里の苦痛を和らげることは、もちろん、賛成だったけれども。

 それが『死』によってしか得られないもの、なんて。

 絶対に。

 絶対に。

 絶対に、受け入れられるものではなかったから。

「……音雪?」

 心配そうに、眉を寄せる薫に、なんてもねぇ、と手を振って。

 オレは、ごまかすように、話題を変えた。
 
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