危険な愛を抱きしめて
雪(1)
一瞬。
誰がケーキ屋に来たのか、判らなかった。
デカい身体を丸めるように。
昏(くら)い瞳をして、気配をほとんど消した男が、ひっそりと入って来た。
普段なら扉を開け閉めするたびに、にぎやかな音をたてる鈴さえ鳴らなかった。
店内は、丁度。
クリスマス商戦真っ只中で、わきかえっていたから。
他の店員も客も。
ケーキ屋の雰囲気にあわないこの男が入って来たなんて、誰も気がついていないようだった。
……ただ、オレ一人を除いて。
「……薫?」
気がついたのは。
下げて来たケーキ皿を山ほど抱えて、厨房へ入ろうとしたときだった。
薫は、ヒトを探しに来たのに、目当てのヤツが見つからなかったのか。
入って来た時みたいに、またひっそりと出て行こうとする。
その背中を、オレは呼び止めた。
「薫じゃねぇか、どうしたんだ?
ケーキを買うのか?
それとも、食うのか?
用があるなら、声くらいかけろよな!」
「……!」
オレが、自分に気がついたのが予想外だったらしい。
薫は、ギクリ、と驚いて、なぜか、引きつった笑顔を見せた。