危険な愛を抱きしめて
「……何で、そんなことを聞くんだ?」

 勤めてフツウに話そうとするオレに。

 由香里が、泣きそうに目を見開いた。

「だって……!
 あの日、朝早く起きたら。
 雪も、兄貴も居なくて……!
 しばらくしてから、帰って来た兄貴に聞けば。
 雪は、始発前には出てったって!
 陽が昇るまで雪のコトを探したけど、見つからなかったって!」

「……」

「しかも。
 後から風ノ塚さんと町谷さんから。
 雪の居場所を知らないか、って電話が来るし!
 それって、ケーキ屋さんにも。
 自分の家にも。
 帰ってなかったってことでしょう!?
 携帯の電源も切れたままで、連絡なんてイッコも取れないし!
 もし、雪の中で発作を起こして倒れてたらって……
 ずっとずっと心配だったんだから!」

 ……それで。

 たいして動けないハズの身体を、引きずるようにして。

 わざわざウチまで様子を見に来たのか……。

 思わず黙ってしまったオレの頬を、由香里は両手で、そっと包んだ。
 
「今、調子悪いのも、夜中に外へ飛び出しちゃったからでしょう?
 兄貴が、雪に何か言うか、するか、した?
 もし、そうなら、兄貴と雪のけんかなんて、本当に小さな子供のころ以来よね?
 なにがあったのか、教えて?
 今度は、あたしが兄貴をとっちめてやるから!」
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