危険な愛を抱きしめて
「……お世話になりました」
建て前、のためでなく。
面倒な、喜代美とのコミニュケーションの手段としてでなく。
素直に丁寧な言葉が、口からついて出た。
ケーキ屋のバイトの最終日。
オレの目の前にいる、風ノ塚は。
寂しそうにほほ笑んだ。
「お疲れさまでした~~
一年以上、村崎君は通ってたのに。
なんだか、あっという間でしたね~~
本当は、もっと長く、お付き合いしたかったんですが。
残念です~~」
……オレも、だった。
例え、パテシェになれなくても、せめて。
大学に通っている間だけでも、出来ることなら。
ケーキ屋でバイトを続けていたかった。
風ノ塚に付いて、もっと。
ケーキの作り方を覚えていきたかった。
けれども。
「期待に、沿えなくて、すみません……」
ココロの底から、アタマが下がるオレを見て。
風ノ塚は、優しくぽんぽんと、オレの背を叩く。
「謝ることは、ありません~~
村崎君が、他にやりたいことがあるのなら。
しかも。
それをするには『今』しかないならば、特に。
迷うことなく、新しい目標に向かって走って行きなさい」