危険な愛を抱きしめて
ざばっ!
先輩のホストと、そいつを指名している客の女が。
オレに向かって同時に、大量の氷水をぶちまけた。
「……!」
アタマから水を滴らせながら、何が悪かったのか、わからず。
呆然と立ち尽くすと。
「見苦しいから、視界に入るな!」と別のホストから、追い払われた。
半分逃げるように。
濡れた服を着替えようと、ホールを横切れば。
オレの間抜けな姿を、店中のヤツらが、指を指して、嘲(わら)う。
「く……そ!」
オレは、誰もいない控え室の奥にある、ロッカー室で。
自分のロッカーの扉を殴りつけると、呻いた。
……こんなハズでは、なかった。
ホストを始めれば、必ず人気が出る、とショコラに太鼓判を押されたはずなのに。
一カ月経っても、オレを指名してくれる客は、居なかったから。
肝心の金は、ほとんど手に入る見込みがなかった。
しかも。
仲間であるハズの、他のホストから。
こんな、氷水をかけられるくらいは、序の口の、陰湿なイジメがあとを絶たなかった。