危険な愛を抱きしめて
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「あら、まあ。
やっぱり、音雪さんでしたのね?」
四十がらみの。
いかにも遊び慣れた、良家の奥様風の女が、妖艶に笑った。
その、見知った顔に、ほほ笑もうとしたオレの表情が。
ぴしっと音を立てて硬くなるのを、自分でも感じた。
「……九条……さやか……さま」
そう、アヤネの母親である、その女は。
オレの口から自分の名前を聞くと、勝ち誇ったように、目を細めた。
「村崎家のご子息で。
ウチのアヤネの婿になる予定の方が。
ホストクラブなんて、いかがわしい場所でアルバイトですか?
村崎家の経済状態が、そんなに悪かったなんて、わたくし、存じませんでしたわ」
その、いかがわしい場所に出入りしている、あんた自身は、なんだ!
と言いたいことをぐっと控えて、オレは、皮肉を込めて笑う。
「九条さまに、ご心配いただかなくても、実家は、安泰です。
オレのこれは、あくまでも個人的な問題で。
……そう。
社会勉強のための遊び、みたいなものです」
「遊び、だから音雪さんは。
特に指名客を取らずに、ヘルプばかりしているんですか?」
「……!」
オレの、情けない仕事ぶりを見通され。
カッと、アタマに血が上ったところを、彼女は、追い打ちをかけた。