危険な愛を抱きしめて
「風ノ塚のケーキ屋に行かなくなったのは、本当」

「なぜ……!」

「ウチのクソ親父と話し合った結果。
 村崎家の一員としては、どうしても……
 ……パテシェには、なれそうにねぇことが判って。
 今、一旦バイトを休んで、新しい目標を探してる途中なんだ。
 落ち着いたら、大学にいる間くらいは、また。
 ケーキ屋で、バイトを再開するつもりだし。
 ……あとは、気分転換にビリヤードをやってるくらいか」

「それって、本当?」

「本当、本当」

 ……半分だけは、な。

 もう、相当カラダの弱っている由香里に心配をかけたくなくて。

 オレは、口から出まかせのウソをつく。

 ……半分だけ。

 まだ、九条の家でビリヤードをやってる。

 汚れた、オレには、もう。

 真面目に、情熱を持ってケーキ作りに取り組んでいる風ノ塚の。

 あの、神聖な厨房には、入れない……のに。
 
 オレは、考えを払うように、クビを一つ振って、由香里に聞いた。

「……で。
 オレが、もし。
 本当にホストのバイトを始めたって言ったら、由香里はどう思う?」
 




< 340 / 368 >

この作品をシェア

pagetop