危険な愛を抱きしめて
 オレの言葉に。

 由香里の目から、大粒の涙がぽろり、と流れて来たのをみて、オレはあわてて、ウソをつく。

「いや、だから『もし』っていう、仮定の話だ。
 本当の話じゃない」

「うん……ごめ……
『もし』っていう話……だよね?
 だって、雪。
 前に言ってたじゃない……
『オレは、自分にしか出来ない。
 相手のココロを震わす何かをやりたい』って。
 家の事情で、パテシェが無理なのは、残念だけど……
 雪の言ってた目標は……ホスト、じゃないはずだよね?
 どんな仕事でも、一生懸命なら。
 悪い、とは思わないけれど……
 本当は、女の子の扱いが下手で……苦手な雪が、目指す場所じゃないわ」

 目を伏せたオレに。

 由香里は、心配そうに、クビをかしげた。

「……雪……?」

「ああ、なんでもない。
 それよりも、新しい目標を考えねぇと、な。
 ……なんて」

 無理やり話題を変えたオレに、由香里は少しだけ、ほほ笑んだ。

「……他に、何かやりたいモノの当てでもあるの?」

< 341 / 368 >

この作品をシェア

pagetop