危険な愛を抱きしめて
 

 ………。



 打って変わった静かな病室に。

 オレと、由香里と、薫だけが、いた。

 必要最低限の、酸素と。

 音を最小に絞ったモニターの他には、何もなく。

 誰も居ず。

 由香里の手を、オレと薫が、両側から、それぞれ握りしめていた。

 担当の医師からは。

 由香里の意識は、もう、戻らないと言われていた。

 イノチが尽きるその時まで。

 最新の医療技術を駆使して、一秒でも長く生きるために。

『死』と戦うことを止めたこの状態が。

 本当に正しかったのかは、判らなかった。

 けれども。

 由香里の手からの体温が。

 今は穏やかに、生きていると、伝えて来ていた。

 こんな状態になってまで。

 疲れ切ったオレ達を癒してくれるように、暖かった。

 それは。

 もし、あのまま延命作業を続けてたら。

 きっと、オレには伝わらなかったはずの。

 由香里の言葉にならない、最後のメッセージだった。








< 354 / 368 >

この作品をシェア

pagetop