危険な愛を抱きしめて
………。
打って変わった静かな病室に。
オレと、由香里と、薫だけが、いた。
必要最低限の、酸素と。
音を最小に絞ったモニターの他には、何もなく。
誰も居ず。
由香里の手を、オレと薫が、両側から、それぞれ握りしめていた。
担当の医師からは。
由香里の意識は、もう、戻らないと言われていた。
イノチが尽きるその時まで。
最新の医療技術を駆使して、一秒でも長く生きるために。
『死』と戦うことを止めたこの状態が。
本当に正しかったのかは、判らなかった。
けれども。
由香里の手からの体温が。
今は穏やかに、生きていると、伝えて来ていた。
こんな状態になってまで。
疲れ切ったオレ達を癒してくれるように、暖かった。
それは。
もし、あのまま延命作業を続けてたら。
きっと、オレには伝わらなかったはずの。
由香里の言葉にならない、最後のメッセージだった。