危険な愛を抱きしめて
不機嫌なまま、家に戻り。
思わず、がらがらぱしん、と音を立てて、横開きの戸を開けると。
きちんと着物を着こなした、キツイ顔をした女が何事かと出て来た。
そして、不用意に物音を立てたヤツがオレだと判ると。
女は。
ヒノキの一枚板で出来た、広いあがりかまちの隅に、正座した。
「おかえりなさい。音雪さん」
「……」
オレは特に、コイツに返事をする気はなかった。
無言のまま、玄関を上がりかけると。
女はこれ見よがしに、ため息をついた。
「帰りのあいさつも出来ないなんて……
小雪里(さゆり)さんは、音雪さんにどんな教育をなさっていたのかしら?」
……!
普段なら。
いつもの事だと、無視する言葉も。
不機嫌なココロにぐさりと刺さる。
オレは、歯を食いしばって、一言ずつ言った。
「ただいま、もどりました。
喜代美(きよみ)さん」
「あら、今日も『義母さん(かあさん)』とは、呼んでくださらないのね?」
よりにもよって、何を言い出すんだ、この女は!