危険な愛を抱きしめて
 オレは、この女がキライだった。

 母さんが死んで。

 たったの一カ月でやって来た、女だ。

 外見がどんなにキレイでも、やっているコトが薄汚い。

 莫大な村崎家の財産を狙ってやって来たのが、見え見えで。

 コイツがやって来た時は、親父の正気をうたがったし。

 もちろんオレは、コイツを『義母』だなんて、認めていなかった。

 思わず睨むと、喜代美は。

 おお怖い、と笑いながら、口元を着物の袂(たもと)で隠して、奥に引っ込んでいきやがった。

 かわりに、裾の短い、着物のような作衣(さむえ)をきた男が顔を出す。

 使用人の町谷(まちや)だ。

「遅うございましたな、坊ちゃん」

「……『坊ちゃん』はやめろ」

 更なる不機嫌の元に、中年を少し越えた町谷は頭を掻いた。

「そんなこと、今更言われましても。
 ……今日の坊ちゃんは、いつもにまして不機嫌ですな」

 大きなお世話だ。

 町谷の言い草に、オレはふん、と鼻を鳴らして応えた。
 
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