危険な愛を抱きしめて
 オレの態度に、町谷はそっと肩をすくめて言った。

「新しい家庭教師の先生が、もう来てますよ。
 離れの、坊ちゃんの部屋にお通ししてますが。
 どうかその、不機嫌の虫を引っ込めて。
 先生に意地悪しないで、仲良くしてくださいましよ?
 今度こそ、長続きする事を町谷は祈っております。
 なんせ、この短期間で十三人も先生を変えるようでは、先行きが……」

「……十四人目だ。
 町谷」

 間違いを正して、オレは、軽く睨む。

「それに、意地悪とは、何だ。
 ガキじゃあるまいし。
 オレは、ただ。
 自分より優秀なヤツじゃないと、教師だとは認めないだけだ。
 学校の教師でも。
 家庭教師でも」



 はあ、それはどうも……と。

 あいまいにうなづく町谷の横を通り過ぎ。

 広々とした日本庭園にめぐらせた長い廊下を黙々と歩いて、とっとと母屋を後にした。

 喜代美が、我が物顔で采配を振っている場所になんか、一秒だって居たくない。

 ようやく自分の部屋にたどり着き。

 いつものように、ふすまを開けて、中に入った、その瞬間。

 オレは。

 デカイ壁にぶつかった。

 
 
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