危険な愛を抱きしめて
「……ってぇ」

 打った鼻を押さえて、思わず座り込むと。

 その、デカイ壁が振り返った。

「おお、すまん。
 ……大丈夫か?」

「デカイヤツが、出入り口に立っているな。
 うっとうしい。
 あんた、だれ……って。
 由香ネェんトコロの……薫?」

 そう。

 部屋の出入り口に陣取って。

 オレの帰りを待っていたらしい、デカイ壁は、由香里の兄貴の薫だった。

 コイツとも、ガキの頃に遊んだ思い出はあった。

 だけども、年が離れていたし。

 薫は特に古武術の道場には通っていなかったから……

 ……オレが由香里の家に遊びに行かなくなってから、何年会ってなかったろう。

 ガキの頃は、なんとなくひ弱そうに見えてた薫は。

 背も伸び、横幅も増して、壁みたいになっていた。

 しかも。

 ちゃんと何かで鍛えているらしい。

 相当硬い壁だった。
 
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