危険な愛を抱きしめて
 





「……お前さ。
 少しでいいから。
 考えるフリぐらいしてみないか?」

「……無駄なコトは嫌いだ」

 ただ、オレは。

 『力試し』とやらの。

 手渡された問題用紙の答えを、機械的に求めているだけなのに。

 薫は出来上がった答案の束を見て。

 げっそりしたように、言った。

「英語は、既に完璧。
 ドイツ語もOK。
 シャレで持ってきたフランス語も解けてる……
 数学に至っては……
 なぁ。
 今すぐ大学行って、俺と首席争いが出来るぞ?
 お前も将来、医者にでもなれ」

「興味ねぇな」

「……参ったな」

 薫は、がしがしと頭を掻いた。

「デキが良いってコトは聞いてたけど、ここまでだとは思ってなかったぞ。
 はっきり言って音雪。
 お前の面倒は、学生じゃみられない。
 コレでも十分だと思うが、更に上に行くなら。
 もっと偉い、教授かなんかを……」

 薫のセリフを、オレは、うんざりと遮った。

「あんたの前の家庭教師(ヤツ)10人ぐらいは。
 なんだか、偉そうな肩書きを持ったじじぃとばばぁだったな……」

 
< 42 / 368 >

この作品をシェア

pagetop