危険な愛を抱きしめて
「はぁい♪」

 オレが叫んだそのとたん。

 だいぶのんきな返事が返って来た。

 ………え?

 驚いて、窓の下を覗くと。

 ここは、どうやら由香里の親戚が、経営する病院の二階で。

 落ちたはずの本人は。

 下の階のひさしに座って、手を振っていた。

 オレが、下をのぞくと、由香里に群がっていた小鳥たちが、ぱぁっと、散って行った。

「良かった………!
 雪、起きたのね!」

「良かった、じゃあ、ねぇ!!
 由香里が落ちたのを見て、心臓が止まるかと思ったぞ!
 ………ただでさえ悪いのに…」

「雪……!
 心臓、悪かったの……?」

 独り言を耳ざとく聞きつけて、今までのんきに笑ってた由香里の顔が、曇る。

「………」

 オレが黙っていると、由香里は、ひょいと、窓枠に足をかけて、部屋に戻って来た。

 まるで、背中に羽がついているみたいな身軽さで。

 そして。

 妖精のように、儚げに、無邪気に。

 心配そうにクビを傾げて言った。

「ねぇ、雪……?
 本当に、どうしたの?
 何か悪いから、倒れたんだよね?
 でも……
 叔父さんも、兄貴も教えてくれないの……」

 



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