危険な愛を抱きしめて
「……別に、大した事じゃねぇ」

 このごに及んで、まだ口を割る気の無いオレに。

 由香里はいきなり飛びついた。

 そして、彼女は。

 そのまま、ぎゅっと、オレを抱きしめる。

「な……なにするんだ……!」

 ……初めて、由香里に触った。

 いや。

『女』に。

 白状すると、舌を使うオトナのキスも。

 それ以上のことも、実はとっくに経験済みだったのに。

 由香里に抱きつかれて。

 その思いの他柔らかい感触に、さっきとは違う変な速さで、壊れかけの心臓が鳴る。

 まるで、初めて、の時みたいに。

 急に火照った頬をごまかすように、由香里を引き剥がそうとすると。

 彼女は、ますますしがみついて来た。

 ……しかも……

「……もしかして……
 由香里……
 泣いてる?」

「……うるさいわね……!
 心配なのよっ……!
 雪が……
 雪が、どこかに飛んで行ってしまいそうで………!」

 強く抱きしめる手が、暖かかった。

 カラダだけでなく、ココロまで、抱きしめられたみたいだと思った。

「……オレは、飛ばない」

 それよりも。

 由香里の方が。

 由香里の方が鳥と一緒に、消えてしまいそうだった。

 
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