危険な愛を抱きしめて
「……去年、母さんが死んだ」
そう、切り出すと。
由香里の瞳は再び濡れ始め……オレに抱きついたままで、小さくうなづいた。
「……うん」
「先天性の心臓病だった。
発見が早ければ……なんとでも治療できたのに。
気がついた時には……遅くて。
母さんは、二年ぐらい病気と戦って……ダメだった」
「…………うん」
「……それと同じヤツが、オレにもあるって」
「……え!?」
由香里の目が大きく見開かれた。
「……雪、それは……」
「……ああ。
このまま放っておけば。
あと四、五年くらいかな?
母さんと同じ運命をたどることになるって」
「うそ……」
オレを抱きしめている由香里の手に。
ますます力がこもった。
「……それが最近判ってさ。
ウチは、とんでもなく大騒ぎになったんだよ。
あんたに見せてやりたいぐらいだよ。
母さんが死んで以来のパニック状態で大変だったんだ。
親父は泣く。
兄貴は、留学先から戻って来る。
町谷を先頭に、使用人たちは、右往左往する……
冷静だったのは、オレの大嫌いな喜代美ぐらいだ」
その光景を思い出して、嘲うオレを、由香里は、真剣な目で見つめた。