危険な愛を抱きしめて
 
「……雪」

 そして、そんな。

 何か言いかけた由香里に、オレは、釘を刺した。

「由香里まで、オレのことを、可哀想とか。
 気の毒……とか。
 そんなことを言いやがったら絶対に絶交だからな!
 親父から始まって全員。
 オレのコトを色々言っているけど。
 結局、みんな上っ面だけなんだ。
 病気で苦しむヤツを捕まえて。
 そいつを心配する自分に浸っているだけなんだよ」

 オレは、由香里を睨んで言った。

「オレは、ちっとも可哀想でも、気の毒がられなくちゃならないもんでもねぇ!
 病気は……遺伝子レベルのもんだから。
 ……母さんの息子である以上、仕方がないんだ」

「……雪。
 何とかならないの?
 治る薬とかは……?」

「飲んで治るような。
 ……そんな都合のいい、薬はないって」

「雪」

 今にも泣き出しそうな由香里に、オレは少しだけ笑って言った。

「……だけど。
 手術をすれば……」

「治る?」

「……まあな」

「良かった!
 じゃあ、何してんのよ!
 ぼんやりしてないで、さっさと手術しちゃえばいいのに!
 莫迦ね!」

 
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