危険な愛を抱きしめて
 どうせなら、このまま手術しちゃえば、いいのに!

 ウチは、腕のいい病院だって、評判なのよ!

 ……なんてコトを言いながら。

 多分。

 医者である自分の叔父に、手術を頼みに出かけようとしたらしい由香里を、オレは止めた。

「……そんな、簡単なシロモノじゃ、ないんだって!」

「雪?」

 オレに手を掴まれて、由香里は振り返った。

「心臓を完全に止めてやるんだ。
 できるところは限られている。
 東京の都心にある病院か……さもなくば、海外か。
 しかも。
 手術が決まれば、改めて色々検査やら訓練やらしなくてはいけないし。
 もし、手術が上手くいったとしても。
 リハビリ込みで、最低一年は学校を休まなくちゃいけない」

「でも、兄貴は……
 雪がすごく、頭イイって言ってたよ?
 一年くらいガッコをサボっても、別にたいしたことじゃないわよ!」

 今度は、由香里が光る目で、オレを睨んだ。

「それよりも、早く治しちゃえばいいのに!
 最近道場に来れなくなった理由も、コレなんでしょう?
 雪は、今まで、いつも。
 とっても楽しそうに身体を動かしてたじゃないの!
 手術をすれば、治るんでしょう?
 このまま!
 このまま雪は!
 好きなこともあきらめて、死んじゃうのを待つの!?」

 
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