危険な愛を抱きしめて
「いいんだよ。
 どうせ色々苦労しても、手術しても治る可能性は、半々だってさ。
 生きることに執着して、カッコ悪くあがくよりも。
 すっぱりキレイに死ねたら、それはそれでいいじゃないか。
 どうせ。将来(さき)にどうしてもやりたいことが、あるわけじゃなし」

 半分あきらめたオレのセリフを、由香里は見事にあっさりと切って捨てた。

「……莫迦ね」

「なんだよ」

「死ぬ事なんかキレイでも、カッコ良くもないのよ!
 それよりも、死んじゃったら、すべてが、無くなっちゃうのよ!
 雪の身体だけじゃない。
 ココロも……雪は何が好きで、何を考えて生きて来たかっていうのも全部意味が無くなっちゃうんだから……!」

「いいじゃないか。
 いっそ、キレイさっぱり全部が無くなっちまえば。
 生きあがくのは、面倒くさいし」

 俺の言葉に、由香里はごしごしと目をこすった。

「後に残されるヒトの身にもなってよっ……!
 雪だって。
 雪だって……!
 自分の母さんに死なれて悲しくなかったの?
 それと、同じ思いを、あたし達に残して逝くつもりなの?」

「……どんなに悲しくったって……
 それが運命なら。
 何度か飯を食って、眠って、を繰返せば、忘れるもんだよ。
 オレのことは。
 初めから居なかったんだと思えば、いい。
 オレはオレでせいぜいカッコ良く死ぬさ……」

「雪は……本当に莫迦よね!!!」

 
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