危険な愛を抱きしめて
 叫ぶ由香里の目から、涙が一滴流れた。

 由香里が、泣く。

 普段は、あまり……というか、決して泣かない人間が、泣く。

 親父や。

 兄貴や。

 町谷みたいに。







 ……その涙に、現実感がなくて。







 いや……






 ……ちがう。







 いつもは、泣かないはずのヒトを。

 自分が泣かしているっていう現実に耐え切れず。

 オレのココロの中のもやもやした部分が、イラつきに変わる。

 自分でも、最低だ、とココロの隅で思ってても、止められなかった。

 ……ひどい言葉、を。

 この時は、まだ。

 由香里のコトなんか一つも判ってなかったオレは。

 それから、もう何年も『言わなければ良かった』と思った言葉を叫んでいた。

















 

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