危険な愛を抱きしめて
「おっとっと。
 篠原さん~~注意して下さいねぇ~~」

 のんびり、ほわほわした口調にもかかわらず、意外に素早い動きで。

 由香里のトレイを支えたヤツがいた。

「す、すみません!
 風ノ塚さん……!」


 おお。

 こいつがそうか。

 フランス帰りのパティシェ、風ノ塚!

 年は幾つか、わかり辛いけれども、オレたちよりはだいぶ上のオトナだ。

 失敗しかけた由香里を怒ることもなく。

 皮肉や、嫌味を言うわけでもなく。

 ただ、にこにこと注意する。

 見た感じは、あまりぱっとしない。

 顔は、それなりにいいのだが、大きな鼻ばかりが目立つ。

 そして。

 開いているのか閉じているのか良くわからないほど細い目が。

 いつも笑っているように見える、愛嬌のありすぎる顔だ。

 背も低めで、なんとか小柄の由香里とつりあうぐらいだし。

 見た目だったら、オレの方が絶対、いい。

 しかもコイツは。

 いかにもな、結婚指輪をペンダントにして首から下げていた。


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