そら
世界が広がる。
このつまらなくも悲しい独りぼっちな私の世界が、
一瞬で色づく。
紙の上で踊る、
私の空想の世界。
もしも私が人気者だったなら。
こんな恋をしたなら。
いつも登下校の道で見かけるあの犬が、
この学校の生徒なら。
そんなふうに思いを巡らせては、
文字にして、物語にして、私は綴っていた。
凄く暗くて、
一人で何してんのって思うでしょ?
でもこの時間が一番、大好きだった。
私の中の、もう1人の私。
それは私であり、私ではない存在。
片翼の、私の相棒。
私だけでは飛べないし、
私の中の私だけでも飛べやしない。
2つが揃って、成り立つの。
私って、そんな人。
だけど私の中の私を、
人には知られたくない。
だって、バカにされるもの。
頭おかしいだろって、言われちゃうもの。
「ねぇ、何書いてるの?」
いつの間にかHRが終わってしまっていて、
気がつくと私の目の前には
話したことも無いクラスメートが立っていた。
咄嗟に腕でルーズリーフを隠して愛想笑いを返す。
ほら。
一瞬で壊れた。
私の中の彩る世界が、
一瞬でモノクロへと変わっていく。
私はこの世界が大嫌いだ。
このクラスが大嫌いだった。
この狭い教室が、嫌だった。
嘘の友情で塗り固められていたこの空間が、
大嫌いだった。