【短編】金魚すくい
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色華廓(いろはなかく)。

都の中にある遊廓だ。その名前から、女たちを遊女と呼ばず『色華』と呼ぶ。

私は第一級色華、『躑躅』だ。
いわゆるなかなか会えない特層階級。

「躑躅姫、あんたは籠の中の鳥だよ。藤咲家から売られた時からね」

女童に髪を整えてもらっている後ろで女将が私に話しかける。
私の持ち色である躑躅色の着物が部屋に広がっている。

「あんたも可哀想だよねえ。金持ちは全く貪欲だね、娘を売り飛ばしてまで金儲けがしたいなんて」

「娘…」

そうか、私はあの人からしたら娘だった。

「あんたもせめて次女じゃなく長女に─いや、少しでも醜く生まれていれば良かったものを」 

この女将は的を射たことを言う。
感謝しているくらいだ。

貴族の次女、しかも見目が良いとなれば遊廓はいくらでもお金を払うだろう。
その後がっぽり儲けるのだから。

女将が私を憐れだと思ってくれたから、私は遊女あるまじき立場にいる。

手籠めにされず、数少ない仕事は酌だけなのだ。

藤咲家ということで問答無用に一級色華にしてくれた。

「女将。ごめんなさい」

「どうしてあんたは」

女将は鏡越しに呆れた表情を見せる。
ため息をついてから出て行った。

女童もいなくなる。  


そんな女将でも、間違っていることが一つだけある。


私は籠の中の鳥じゃない。


私は金魚だ。


だって、逃げ出すための翼も持たないのだから。



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